BE THE CHANGE
-フェアトレードを通じて貧困問題にどう関わるべきか
末吉竹二郎(国連環境計画 金融イニシアチブ特別顧問)
世界フェアトレード・デー、おめでとうございます。サフィアとはたびたび会う機会があり、素晴らしいイベントを開催している彼女にご招待いただき、大変光栄に思います。 私はこのような機会で世界のさまざまな問題についてお話させていただいていますが、日本の我々が気づいていない大きな問題があります。それは世界の貧困です。今日は、フェアトレードを通じて世界の貧困問題をどう考え行動すべきか、ということについて話したいと思っています。
フェアトレードを考える原点-アンフェアな世界
私自身がフェアトレードを考える原点は、まず第一に、世界には不公正、アンフェアなことが多すぎるということです。 皆さんはご存知でしょうか。たとえば、肥満は10億人、飢餓状態においこまれている人々は10億人という数字があります。アンフェアだと思いませんか。同じ時代に生きていながら、片方では食べ過ぎて困っている人が10億人、片方ではお腹をすかしたり、何も口にすることをできない人が同じ数の10億人もいるのです。
あるいは、ある国連の統計によりますと、アメリカで作られている食べ物の4分の1は、誰の口にも入らず、捨てられています。世界で3秒に1人の子どもが貧困で亡くなっているという現実もあります。今、30秒ほど話したこの瞬間にも、10人もの幼い子どもが亡くなったことになるのです。また、世界の富裕層のトップ250人と貧困層の25億人の収入が同じだという例もありますね。
今、私の前には水があります。いつでもおいしい、安全な水を飲むことができます。ところが、世界には、こうした水にありつけない人が、10億人をくだらないのです。BBCの番組などを見ていると、泥水を飲んでいる子どもを目にすることもありますね。こういうものが、世界の不公正の現実なのです。
また、世界の軍事予算の4日分を割くと、世界のすべての子どもたちが義務教育を受けることができます。私はタイに駐在をしていたことがありますが、文字を書けない、読めない子どもたちと出会い、彼らの未来を案じたものです。
世界の義務教育費は世界の軍事費4日分、ヨーロッパで食べられているアイスクリームの売り上げが、世界で上下水道を必要としている人々のための整備費と同じ……、こういったことがわれわれが住んでいる地球の現実なのです。皆さんはこれを聞いて、仕方がないと思いますか? あるいは、世界の国々がもっと努力をすべきだと思いますか?
貧困は決して、その貧困の中にいる個人の、地域の、国の責任ではありません。むしろ彼らこそ、貧困という罠(トラップ)の中に閉じ込められているのです。外から手をさしのべて、貧困のトラップの中から彼らを1人でも多く引き出すことが必要です。これこそが私がフェアトレードを考えるバックグラウンド、一番の原点なのです。
フェアトレードを考える原点-生産者の権利
そして第二に、バングラデシュのムハマド・ユヌスという、マイクロファイナンスでノーベル平和賞を受賞した人がいます。彼は日本円に換算すれば数百円のお金を貸して女性たちの生活を変えていくというビジネスを始めました。彼がこのビジネスを始めるきっかけは、竹かごを編んでいるスフィーという女性だったと言います。1日中働けども働けども、今で言うと20円ぐらいしか手元に残らない生活を送っていたスフィーに、200円を貸し、彼女の手元に利益がすべて残るようにしました。
そして今では250万人が、マイクロファイナンスの恩恵を受けています。彼の話を聞いて私は非常にショックを受けました。それというのも、ユヌスさんは「お金を借りるのは、借りる人の権利である。お金を借りることは、人権なのだ」と言うのです。以前、私は金融機関で働いていたときには、「お金を貸すことは、貸す人の権利」だと、まったく逆のことを考えていたのですが、ユヌスさんの話を聞いて、考えを改めました。
そういうことでフェアトレードを見直したとき、先進国のフェアトレードのバイヤーやビジネスパーソンに求めることは、「フェアトレードはものをつくる生産者の権利だ」と考えるべきだと思うようになりました。
たとえば私は今日バングラデシュの手織りのコットンのシャツを着ていますが、こうした着心地の良い洋服をつくっている生産者の方たちにとってはフェアトレードは彼らの権利なのだ、買ってくれる相手側の施しではない、今はそう思っています。そのことをフェアトレードを考える原点におくべきなのです。われわれが助けてあげるということではなくて、もともと生産者の方々の権利なんだ、その権利をどうやって我々が受け止めて形のあるものにしていくかを考えていくことがとても重要なのです。
フェアトレードを考える原点-ビジネスの視点
そして第三は、ビジネスがフェアトレードをどう受け止めていくかということです。フェアトレード自体がビジネスとして永続性があるものにならなければならない。本来のビジネスがフェアトレードをどう受け止めるべきかが非常に重要になってきます。
おりしも、我々はこの1年半、世界金融危機に陥りました。皆さんは、今の金融危機をどういう“レッスン”だと考えていますか? 私は、“物事を短期でみることはやめよう”という教訓を学びました。短期主義、そういったことをやめようということです。私の理解では、アメリカで始まった金融危機は3年かけて手に入れる利益を1年、いや3ヶ月で手に入れようとしたがためにおちいってしまったと思っています。
今朝の新聞でも、アメリカの金融機関の資本金が足りない、そこに何十兆円もの資金をつぎこまなければならないという記事が紙面をにぎわせていました。しかしこれから大事なことは短期主義から、長期でものをみようということです。長く時間をかけて得ていくものこそ価値があるのです。私は、フェアトレードとはまさにこの「長期」なのではないかと考えます。
安いコットン、コーヒー豆があり、それを叩けるだけ叩いて安く買うと、売った人は短期的には利益を得られます。しかし、生産者はいったいどうなるのでしょうか。生産者が来年も同じ品質を確実につくれるだけの収入を確保してあげなければ、今年はよかったとしても来年はだめになります。
そういう時代が終わったということが今回のレッスンだったとすると、ビジネスこそ、長期に物事を考え、長期に品質のいいモノを育て、そういう生産農家を一緒につくっていく。彼らの権利の実現のためにビジネスがいかにフェアトレードに協力できるか、これこそが今の時代のレッスンなのです。
これは単に経済上の話だけではありません。生産者の家族、子どものことも考えてみてください。生産者の生活が少しでも安定すれば、子どもが学校に行ける時間がうまれるかもしれません。文字を知ることによって、その子どもの一生は大きくよい方にかわります。こういったことも考えるべきなのです。つまり、ビジネス以外の波及効果もあるわけです。これはフェアトレードだけでなく、日本のビッグビジネスに関しても言えることです。
BE THE CHANGE
この金融危機から回復するにあたって何を考えなければならないのか。20世紀の経済のやり方を繰り返し、今回の不況から回復したとしても長続きはしません。回復後、持続可能な姿での経済を手に入れるために、世界の人が共通で言い始めているのは「この経済をもっとグリーンなものにしよう」ということなのです。
「グリーン」は、さまざまな意味を持ちます。環境を大切にすること以外にも、貧困問題を考える、格差の問題を考える、女性の権利の問題を考える、人権のことを考えることが、世界の経済をよりサステナブル、持続可能なものにするのです。それが私の結論であります。間違いなく正しい方向だと私は考えています。
そこで、ビジネスを考えるときに、皆さんにぜひお願いしたいことがあります。ビジネスはモノやサービスをつくるメーカーだけではできないのです。消費者がいて初めてビジネスが成り立つのです。買いたいと思う皆さん、消費者がいなくては成立しません。つまり経済をよりグリーンなものにするには、消費者の皆さんが変わらなくてはならないのです。
ビジネスを営む方もこの場にいるでしょうが、ここにいるすべての方の共通点は皆さんが「消費者である」ということです。消費者である皆さんが何を考え、何をチェンジしていくのかということが「グリーンエコノミー」を現実のものにする大きなパワーになるのです。そのマインドセットこそが本当に社会を変えます。
サフィアはそうしたソーシャル・アントレプレナー(社会企業家)として、皆さんに問いかけました。しかしサフィア1人ではここまでのムーブメントはつくれなかった。皆さんが支援したからこそ、この場があるのです。
世界にたくさんある不公正を解決していくために、いち消費者として参加し、パワーを行使していくことができるのだということをより多くの皆さんがお考えになって行動をとれば、世の中は必ず変わります。変わらないことはありません。歴史がそれを証明しています。しっかりと今日そのことを改めて再確認していただければと思います。
今日はお二人インドからお客様がいらしていますが、インドにガンジーという方がいましたね。ガンジーはこう言っています。
「BE THE CHANGE」
世の中に変化を求めたければ、あなた自身がその変化の一部になりなさい。
フェアトレードを通じてこの社会を変えていこうではありませんか。誰かが変えてくれるのではなく、私が変えるんだ、その前に、私がその変化の一部になるのだ。
「BE THE CHANGE」
本日はありがとうございました。








